神戸の新開地にあるビルの廃墟、富士の樹海- 豊浦正明の作品の背景には光の粒子さえも運動を止めたような永遠の静寂の世界がある。彼岸、黄泉の国とはこういうものだと言われたら阿鼻叫喚の地獄絵図と比較してこちらの方が極々ピンと来るに違いない。そこでは山吉由利子の人形、天使の羽をつけた裸体の女、緊縛された女等の被写体は此岸から迷い込んだ異質な物体のようだ。完全に静止したその世界でそれらは歩き、喘ぎ、あきらめ、呆けるなどの行為を示すのだ。「写真を撮ることは、被写体をコレクションすることと同じだ。他人に見せたくて撮るんじゃない。それを自分のものにしたい、所有したいからなんだ。」 被写体は『永遠の静寂の世界』である豊浦の標本箱に収集される。被写体は彼岸に迷い込むのではなくて豊浦によって送り込まれるのだ。現実世界ではやがて朽ち果てるだけの被写体は、もはや廃墟であったはずの背景に取り込まれることによって永遠の生命を持つ。 写真集「ELYSION」の撮影に立ち会った北原童夢によると、豊浦の現場での作業はごくさりげなく行われるらしい。被写体はそこで現実の諸々の物象とともに採集される。採集された獲物- 被写体は、アトリエに持ち込まれ、巧みに現実の時間、物象をそぎ取られることになる。出来上がったプリントには現実とは異質な何かで形成された世界があり、そこに被写体は幽閉されてしまっている。現実の生を剥奪されて、異質な生を与えられた被写体にはもちろん記憶などないだろう。豊浦の作品が普遍的に見えるとしたら、廃墟をさまよう被写体の姿が、知らず生を受けその意味を考える我々の人生を感じさせるからだろうか。もちろん、その人生には豊浦の標本箱のような美しさは皆無なのであるが・・・。 |
(3月発売予定)
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